人手不足の今、仕事は「細かくする」べきか「まとめる」べきか
こんにちは。工場改善サービスの田代です。
「人が集まらない」「中途採用も難しい」——最近、経営者の方々とお話しすると、必ずといっていいほどこの話題になります。製造業における人手不足は、もはや一時的な問題ではなく、構造的な課題になっています。
そんな中でも、売上や利益は確保しなければならない。今いる人、せっかく採用できた人に、どう仕事を与えるべきか。今回はその「仕事の与え方」について考えてみます。

目次
多くの工場が信じている「分業の常識」
多くの工場では、こんな形で仕事を分けているのではないでしょうか。
- 機械から製品を取り出す人
- 部品をセットする人
- 加工・削る人
- 運搬する人
- 検査する人
「仕事を細かく分けた方が、一つひとつの作業が速くなる。だから全体も速くなる」——そう考える経営者は多いと思います。習得も早くなりますし、一見、合理的な発想です。
しかし私は、この「常識」に疑問を持っています。

アダム・スミスが『国富論』で語った「分業」の本当の意味
「分業」という概念のルーツは、アダム・スミスの『国富論』(1776年)にあります。
「よく統治された社会では、最下層の人々にも富が行き渡る。それは分業の成果などである。」
そして、この後に続く言葉が重要です。
「どんな粗末な衣服でも、多くの人々の技術が結集されているのだ。」
アダム・スミスが語った「分業」とは、一つの仕事を細かく分割することではありません。それぞれの人が高度な専門技術を持ち、その価値を交換し合うことで社会全体が豊かになる——それが本質です。
スマートフォンも、自動車も、私たちの食卓も、無数の専門家たちの技術の結晶によって成り立っています。工場の中で「早く覚えてもらうために仕事を細かく分ける」のは、この意味での分業とは、まったく別物です。
分業を細かくすると、現場で何が起きるか
実際に私がコンサルタントとして現場に入ると、細かすぎる分業がもたらす問題を繰り返し目にします。
やる気が出ない。 自分の出来高は、前後の工程の速さに制約されます。自分がどれだけ頑張っても、全体のスピードは変わらない。そうなると、人は自然と手を抜くようになります。
管理コストが膨らむ。 3人が介在する工程で不良が出ると、責任は3分の1ずつに薄まります。誰も本気で品質に向き合わないため、チェックシート、ダブルチェック、管理帳票……と、お金と手間ばかりがかかる仕組みが増えていきます。

誰も全体を把握していない。 工程が分断されると、製品の全体像を理解している人がいなくなります。改善しようにも、どこに問題があるのかすら見えなくなっていきます。
仕事をまとめたら、生産スピードが120%アップした
あるお客様での話です。
3人で工程を分担していたラインがありました。「部分最適の方が速い」という経営者の判断で、長年その形を続けていました。私が「一人でまとめてやってみませんか」と提案したとき、当然ながら抵抗がありました。「本当にできるのか」「かえって遅くなるのでは」という声が上がりました。
そこで改善会を通じて、まずお試しでやってもらいました。
結果、3人でやっていた工程を1人でこなして、時間あたりの出来高が120%に上がりました。
なぜか。自分でペースをコントロールできるようになったこと、全体の流れが見えるようになったこと、そして何より「自分が作った」という意識が生まれたことが大きかったと思います。
「オタクの田中さんが作ったやつだから買うよ」
さらに一歩進めると、お客さん一社ごとに、担当の作業者を決めるという形があります。
同じお客さんの仕事をずっと担当していると、そのお客さんの癖がわかってきます。どんな精度を求めているか、どんな梱包を好むか。やがて担当者同士で顔の見える関係になっていきます。

そうなったとき、こんな会話が生まれます。
「オタクの田中さんが作ったやつだから買うよ」
これこそが、アダム・スミスの言う「高度な専門性による価値の交換」です。価格競争から抜け出し、「この人だから」「この会社だから」と選ばれる関係。人手不足の時代に、これ以上強い武器はありません。
まとめ:人手不足だからこそ、仕事は「まとめる」
- 「分業すると速くなる」は部分最適の錯覚
- 細かすぎる分業は、やる気低下・管理コスト増・品質責任の希薄化を招く
- 仕事をまとめると、出来高が上がり、人が育ち、管理が減る
- 一人の作業者が一つのお客さんを担当する形が、最終的に最も強い
「あの人はこれしかできない」と決めつけてしまうのは簡単です。しかし私たちの先輩方は、人の能力を信じ、技術を磨き、その価値を交換することでこの社会を豊かにしてきました。
人手不足の今だからこそ、一人ひとりの知恵と能力を最大限に引き出す仕事の与え方を、ぜひ考えてみてください。
もし「自社でどう進めればいいかわからない」とお感じの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。製造業専門のコンサルタントとして、現場に伺いご支援します。

