「できない」が口癖の現場には、これが効く
先日、一冊の本を読んだ。
野田智義・金井壽宏著『リーダーシップの旅 見えないものを見る』(光文社新書)。
リーダーシップとは何か、そしてどうすれば身につくのか。この問いに真正面から向き合った一冊だ。著者たちの答えはシンプルだが深い。「見えないものを見た人間が、仲間を増やしながら旅を続けること」、それがリーダーシップの本質だという。ワンピースのルフィが仲間を引きつけるように、ビジョンを"感じさせる"力でしかリーダーシップは生まれない、と。
この本を読んで、私は思わず膝を打った。
「現場改善を続けてきて、よかった」と。
組織はなぜ、過去に縛られるのか
本書の中に、組織論についての鋭い記述がある。
組織をうまく回すには、マネジメント、つまり仕組みが必要だ。問題が起きれば仕組みの中で解決し、再発防止の策を織り込んでいく。これ自体は正しい。
しかし、ここに自己矛盾が潜んでいる。
仕組みは常に"過去の問題"に対して設計される。
再発防止策も、人材評価制度も、業務マニュアルも、すべては過去に起きた出来事をもとに作られている。だから変化が緩やかな時代であれば、仕組みは有効に機能する。過去と未来が似ているからだ。
ところが今のような不確定な時代では、話が変わる。過去には存在しなかった変化が次々と押し寄せてくる。仕組みはその変化を想定していない。結果として、組織はその仕組みに縛られ、新しい現実に適応できなくなる。官僚組織の誕生だ。
本書はその処方箋として、「起きてしまったことを絶えず擦り合わせ、適応し続ける機能を持つこと」を挙げている。
これを読んで、私が長年現場でやってきたことが、組織論の文脈でも正しかったと確信した。
「それが当たり前」という壁を壊す
私が現場改善に入るとき、必ず意識していることがある。
「まあ、うちはこういうやり方だよね」「過去に検討したけど、できないってわかってるよね」というブロックを外すこと。
生産を止めようというわけではない。ただ、過去の前提が積み重なってできた「見えない壁」を一枚剥がすだけで、それまで詰まっていた思考が突然流れ出す瞬間がある。
「意外とできるじゃないか」「なんで今までやらなかったんだろう」という声が現場から上がる瞬間。これが私の言う「できない理由が、課題に変わる瞬間」だ。
多くの工場で、社長が「これをやれ」と言っても、現場は「できない、できない」と繰り返す。それは現場の怠慢ではない。組織の適応力が弱まっているサインだ。
昨日の現場で起きたこと
ちょうど昨日訪問した会社でも、まさにこの場面があった。
1階に工場があるのに、なぜか一部の部品組み立てだけが2階で行われていた。
理由を聞いてみると、「この工場ができた時からそうだったから」という答えが返ってきた。
「では、下に移しませんか?」と提案すると、できるできないの議論は出てくる。しかし私はすでに心の中で決めている。
次回の訪問では、必ず1フロアで作業してもらう。
できないかもしれない、いろいろ問題があるかもしれない。それでも「1階でやる」という前提を崩さなければ、"どうやればできるか"をみんなで考え始める。その思考の動きこそが、組織の適応力を育てる。
「破壊」は、混乱ではなく適応のスイッチ
変化の激しい時代に求められる組織とは、精密な仕組みを持つ組織ではなく、現実に合わせて自らを書き換えられる組織だ。
そのためには、定期的に「過去の前提」を壊す機会が必要になる。
現場改善とは、生産効率を上げる技術的な取り組みだと思われがちだ。しかし本質は違う。現場の「当たり前」を揺さぶることで、組織が持つ適応力のスイッチを入れる行為だ。
3年のコンサルティング経験の中でそう感じてきたことを、今回この本が組織論として言語化してくれた。
もしあなたの組織に、新しい時代への閉塞感や不安があるなら、それは仕組みが足りないのではないかもしれない。むしろ、変化をもたらす「破壊の契機」が必要なサインかもしれない。

